接尾辞「~的」の分類と誤用例
前回記事の続きです。今回は「~的」にはどのような意味・語法があるのかを探っていきます。
意味ごとに分類
1、詳細説明
「BがAの性質を帯びている」
「BがAという状態である」
「BがAをしている」
といった具合に、「~的」を用いて後接語の属性・性質を説明していきます。
科学的な根拠(どのような根拠か説明)
爆発的な人気(どれくらい人気か説明)
知的好奇心(何に対する好奇心か説明)
この場合、「~的」はあくまでも修飾語として働くので、省略しても文の意味はあまり変化しない、という特徴もあります。
科学的な根拠を述べる⇒根拠を述べる(内容は不明瞭になるが、文意は通じる)
2、比喩表現
用法1のように「A=B」とはならずとも、「A≒B」ほどには類似性がある場合は、こちらに分類されます。意味としては「AのようなB」の形で用いられます。
教師的な立場(まるで教師のようだと比喩)
機械的な人間(情の薄さを機械にたとえている)
3、分野指定
「今からどのような話をするのか」を「~的」という表現で端的に表します。ここに分類される語には、「AにおけるB」、「AとしてのB」、「Aに対するB」など、”的”の代わりに助詞を用いても違和感なく伝えられる、という特徴があります。
文法的な誤り(文法における誤り)
教師的な意見(教師としての意見)
環境的な問題(環境に対して問題点を指摘している)
「~的」は非常にあいまいな表現方法なので、それ単独では分類できない場合もあります。たとえば「科学的意見」という表現は、「この意見は信頼に足る」とも受け取れますし、「科学という観点から述べている」とも受け取れます。
前者の場合は「問題」を修飾するために「~的」を用いており、後者の場合はまず「~的」で分野を示しているわけです。細かいニュアンスまで伝えるためにも、闇雲に「~的」を用いてはいけません。意味を誤解しないように、正しい文脈の中で用いるようにしましょう。
文法ごとに分類
1、連体用法
A、「~的」を用いて体言を修飾する
知的好奇心
B、「~的な」を用いて体言を修飾する
科学的な根拠
C、「~的の」を用いて体言を修飾する
科学的の根拠
※この分類に頼った場合、誤用となることがあります。なにぶん古い分類法なので、現代の表現にはそぐわないのでしょう。
2、連用用法
A、「~的」を用いて用言を修飾する
比較的良好だ
B、「~的に」を用いて用言を修飾する
科学的に証明する
※「的には」と言い換えることも
C、「~的と」を用いて用言を修飾
科学的と言える
※「~とも」と言い換えることも
3、断定用法
A、「だ」「だった」を付ける
彼は知的だ
B、「で」「である」「でない」を付ける
彼は知的である
C、「と」を付ける
彼は知的と感じる
使用頻度ごとに分類
1、固定的用法
世代を超えて使用され続け、ある種の「慣用句」として用いられます。辞書にも載せられており、公的な使用が認められています。
科学的、積極的、本質的、個人的
2、一時的用法
特定のジャンルや世代でしか用いられていない表現です。辞書には載っていない非公式な表現であるため、相手によっては伝わりづらい表現となります。ただし語だけでなく句をまとめて「~的」で括ることもあるため、表現の幅が広い表現でもあります。
勉強的、わたし的、科学論文的
科学論文を読む的な難しさ
「~的」の誤用について
昭和時代は「漢字+的+漢字」と表現するのが一般的でしたが、平成に入るとその表現方法は廃れていき、助詞を間に挟むようになりました。
抜本的改革⇒抜本的な改革
科学的知識⇒科学の知識
あるいは「~的」という表現自体を避け、別の表現方法を探ることも増えました。時代を経るごとに「日本語をより平易化しようとする」意識が強くなっていったため、漢字を連続させて文を難解にしてしまう「~的」という表現も、なるべく避けるようになったのでしょう。
「~的」の誤用は、時代的なものにとどまりません。たとえば「美的な自然風景」という表現は誤りです。「美的」には「芸術的な観点から見て美しい」というニュアンスがあるため、「風景」を修飾する語としては不適切なのです。この場合は単に「美しい自然風景」ないし「自然風景の美しさ」と表現します。
そもそも「的」が蛇足になってしまう場合もあります。「深刻的な問題」という表現は「深刻な問題」とした方が簡潔に表せますし、「文学的な研究者」という表現に至っては、「文学的な表現を好んで用いる研究者」なのか「文学を研究している人」なのか、読者を混乱させてしまいます。
「~的」は考えがまとまっていない時や、言葉やニュアンスをうまく言い表せない時に、それら思考を”とりあえず”言葉にしてくれる便利な表現方法です。それゆえに安易に頼りがちなのですが、人によって解釈が異なってしまう表現でもあるため、あまり多用すべきではありません。
とりわけ辞書に載っていないような表現、ある種の”造語的な”「~的」の使い方をしてしまうと、読者が解釈に困ってしまいます。
草書の段階では、「~的」を用いて文章を書いても問題ありません。つねに適切な表現を考えるのは大変なので、その思考時間を節約してくれる「~的」はむしろ重宝します。
ただしその文章を書き終えた際には、「本当に”的”を付けるべきなのか?」「〇〇的という表現は一般にも通じるのか?」を問いながら校正していきましょう。より具体的・体験的な表現へ直すことができれば、読者にもわかりやすい文章へ仕上げられるはずです。