日本語における語彙体系 ~概要編~
前記事では日本語において、文構造を掴むために必要となる知識をまとめました。今回はその続きとして、「日本語は語彙をどのように分類しているのか」を追っていきます。
なお要点を押さえやすくするために、箇条書き形式で綴ってあります。ご了承ください。
〇日本語の特徴
・和語、漢語、外来語を組み合わせていく
※和語⇒古来より日本で用いられていた語
例)書く、読む、句、言葉
※漢語⇒中国から輸入された文字・言葉
例)執筆、読者、文章、表現
※外来語⇒中国以外の国から輸入された言葉。主にカタカナで表記される。
例)ライティング、リーディング、ワード、センテンス
・2種以上を混ぜた言葉もある(混種語)
百貨(漢語)+店(和語)⇒百貨店
消す(和語)+ゴム(外来語)⇒消しゴム
まとめると、日本語で用いられる言葉は以下のように分類できる。
・文で用られる文字は主に、漢字・ひらがな・カタカナの3種類
・文脈によっては数詞、アルファベットも用いる
・句読点(、。)や鍵括弧(「」『』)、中黒(・)などの記号を用いることもある。文意には影響を与えないものの、これらは文構造の理解を助け、文章を読みやすくしてくれる。
・日本語は待遇表現が発達している(敬語、敬称、礼儀語)
例)おっしゃる、お客様、ありがとうございます
・相手や状況に応じて「言葉を使い分ける」意識が高く、それが語にも現れていると推察できる。
・地方や状況に応じて、多様な語を使い分けている(方言、特有語、口語 など)
方言:こんばんわ⇔おばんです、鮭(さけ⇔しゃけ)
特有語:校閲(出版業界)、デバフ(ゲーム用語)
口語表現:さっき、なんで?、~なんだよ
・やはり「言葉を使い分ける」意識が高いようだ。「伝える相手」を定めておかなければ、「適切な言葉」を用いることは難しいだろう
・外来語が今も増え続けている
・日本にはない言葉や概念を”とりあえず”言い表すために、外来語をそのままカタカナに当てはめている。
・日本語として定着していない語も多い。外来語をただカタカナに当てはめた語(カタカナ語)だけでは、細かい意味・ニュアンスまで伝えることは難しい。
・カタカナ語を用いる場合は、伝える相手がその語を理解しているのかも重視すべき
・日本語の語彙には、様々な分類体系が存在する。ただしどの分類体系にも例外が生じるため、日本語の語彙を完璧に分類することはできない。
※大まかに分類(文の役割)⇒主語、述語、修飾語、接続語、独立語
※句ごとに分類(文節)⇒主部、述部、修飾部、…
※語ごとに分類(単文節)⇒名詞、動詞、形容詞、…
※文節⇒句を構成する最小単位。そのまま用いても意味を為す。
例)「私が」「書いた」「文章」
※単文節⇒語を構成する最小単位。そのまま用いても意味を為さない語がある(助詞など)
例)「私」「が」「書いた」「文章」
国語教育における分類体系
・日本語の文は、主述関係だけでは文構造を十分に説明できない
・より複雑な文を形成すべく、より細かい分類体系が設けられた。それらを総称して「文の成分」と呼ぶ
・国語教育における文の成分は5つ
・主語、述語、修飾語、接続語、独立語
・文の成分とは別に、「文節の関係」を表している分類体系もある
・並立語、補助語、被補助語
・「文の成分」と「文節の関係」を組み合わせることで、日本語の文構造をより理解しやすくなる
主語、述語
・文を成立させるための基礎構造
・日本語は主要部終端型ゆえ、述語は特に重要
修飾語
・連用修飾語、連体修飾語の2つが該当する
・文意を成立させるために必要な修飾語は「補充成分」とも呼ばれる。逆に省いても問題ない修飾語は「修飾成分」と称される。
連用修飾語
・用言に係る修飾語
※用言=述語や修飾語として用いられる語。動詞、イ形容詞、ナ形容詞が該当する
例)文章をたくさん書く
※「たくさん」は「書く」という行為をより詳しく説明している(修飾している)
※一方で、「文章を」は「書く内容」を説明しているのであって、「どのように」書くのかは説明していない。つまり「文章を」は「書く」という行為を修飾しているのではなく、「書く」の目的語として機能している(連用修飾語ではない)
連体修飾語
・体言に係る修飾語
※体言⇒主語・目的語・補語として用いられる語。名詞、代名詞が該当する
例)優れた執筆者は読みやすい文を書く
※「優れた」は「執筆者(主語)」を、「読みやすい」は「文(目的語)」をそれぞれ修飾している。
※補語⇒主語や目的語をさらに説明する語。修飾語には分類されない
例)私は文筆家だ
※この文では「私=文筆家」という関係が成り立つ。つまり「文筆家」は「私」を修飾している(主従関係にある)わけではなく、文において「私」と同じ役割を担っている(並列関係にある)。
補充成分ー修飾成分
・補充成分⇒省くと文意が伝わらなくなる語
〇 文章をたくさん書く
× たくさん書く(何を?)
文意が伝わらなくなるため、「文章を」は補充成分
・修飾成分⇒省いてもあまり問題がない語
〇 文章をたくさん書く
△ 文章を書く
情報量は減るが意味は通じる。「たくさん」は修飾成分
・補充成分を意識すると、その文が何について説明しているのかを掴みやすくなる。その上で修飾成分にも意識を向ければ、文構造を見抜きやすくなる。
接続語
・句と句の論理関係を示す語
・接続語としてのみ機能する語を、特に接続詞と呼ぶ。
例)書きたいが筆がない
例)文を書いた。だから読んでくれ
・同じ接続語でも、文脈に応じて示す論理関係は異なる
例)文章を書いた。しかしそれを公表しなかった(逆説)
例)文章を書いた。しかし会話で伝えたほうが良いこともある(対比)
・接続詞を見ると、人は無意識にその接続詞から論理関係を予想し、後の内容がその論理関係に沿うものであることを期待してしまう。つまり接続詞を正しく使わなければ、読者に矛盾を感じさせてしまい、その文の理解を妨げてしまう
・接続詞を用いる際は、文脈に応じてその論理関係が変化することも考慮に入れながら、論理関係に矛盾が生じていないのかを確認すべきだろう
独立語
・他の文節と「修飾ー被修飾」の関係を持たない語
・感動、呼びかけ、応答、提示などが該当する
例)はい、読んで。
例)ああ、素晴らしい。
・名詞や動詞、形容詞も独立語になり得る。
例)文章。それは頭の中にある感動を伝える手段である。
例)素晴らしい。この文章、私は気に入りました。
並列語
・主従関係ではなく並列関係にある語
・文において同じ役割を果たしている
例)漢字とカタカナで書く
例)国語教育では日本語を主語、述語、修飾語、接続語、独立語の5つに分類します
・語と語が主従関係にあるのか、並列関係にあるのかを意識することで、文構造をより把握しやすくなる。
対象語
・述語の対象となる語
例)私は文を書く
・主語、述語をより詳しく説明している(補っている)という解釈もできる。つまり対象語は補語に該当する語でもある
状況語
・対象の語を取り巻く環境・状況を説明する語
・時、場所、原因、目的などが該当する
例)文章が完成したので、明日、ブログで公開する
※「文章が完成したので(理由)」、「明日(時)」、「ブログで(場所)」のいずれも状況語に該当する。「公開する」を直接的に修飾するのではなく、あくまでも周辺環境を示している。
※連用修飾語もある種の状況語である
例)早朝に書く(時)
例)家で書く(場所)
・語と語のつながりを把握する際には、その語が「どのような要素」を説明しているのかに着目すると、理解を助けてくれる。
以上、日本語における語彙体系について、国語教育の基準を用いて説明させていただきました。
日本語の体系を深く理解することは、読解力を上げるとともに、「質の良い文章」を書くことにもつながります。文法体系と語彙体系をどちらも高めることで、より洗練された文章を作成できるようになるでしょう。