「形容詞+いです」に違和感を感じたら
・「形容詞+いです」の歴史
実は「美しいです」という用法はここ最近のもので、かつては「美しゅうございます」と表現するのが一般的でした。つまり形容詞で文章を終える際には、「形容詞+しゅうございます」と表現していたわけです。
これは江戸時代から明治時代にかけて使われていた古い言い回しで、具体的な始まりや終わりの時期は厳密に定められていませんが、明治時代以降、徐々に使用されなくなっていきました。
「形容詞+しゅうございます」という表現は”丁寧さ”や”礼儀正しさ”を表現するために用いられてきたわけですが、現代ではこの表現はほとんど使われておらず、一般的な日常会話や文書では見かけることはまずありません。
歴史的文書や文学作品で見かけることはあるものの、日常会話や文章で見かけることは稀で、読者にも「古風すぎる」「大げさ」といった印象を持たれてしまいます。
そして現代の日本語では「しゅうございます」という語尾字体が廃れてしまい、結果として形容詞の用法も変化せざるを得なくなりました。
つまり形容詞をそのまま使うか、丁寧な言い方として「です」「ます」を付け加えることが一般的に広まったのです。そしてそれがそのまま、「形容詞+いです」という表現法として定着することになりました。
例)
〇美しいです
×美しゅうございます
・「形容詞+いです」の違和感をなくしたい
「大きいです」「楽しいです」「しんどいです」。こうした語尾で一文を終えることは珍しくありません。「形容詞+いです」は歴史的観点から見ても正しい表現であり、たとえ公文書に用いたとしても通用する表現法だと言えます。
しかし文法上は正しくとも、「形容詞+いです」という表現に違和感を覚える人もいます。かくいう私もその一人で、この表現を連続されると、なんとも言えない居心地の悪さを感じてしまいます。
例)
彼は賢いです。文章を書くのも上手いです。いつも彼が更新する記事を読むのが楽しみです。
上記のような文章からは、まるで小学生の書いた作文を読まされているような、”稚拙さ”を感じてしまうのですよね・・・。
これは「形容詞+いです」という用法に加えて、「語尾を連続させている」ことも原因であると感じますが、とにかく形容詞を用いる際には、読者に違和感を与えるおそれがあることを意識しておきましょう。
なお形容詞を名詞化させて用いたり、まったく別の表現へ変えたり、文法に幅を持たせることでその違和感も最小限に抑えることができます。
例)
△彼は賢いです。文章を書くのも上手いです。いつも彼が更新する記事を読むのが楽しみです。
〇彼は語彙力が豊富なので、文章を書くのも上手です。かくいう私も、彼が記事を更新してくれるのを楽しみに待っています。
先の例を書き直してみました。変更点は以下の通り。
・賢いです⇒語彙力が豊富です
・上手いです⇒上手です
・楽しみです⇒楽しみに待っています
具体的な改善点としては、いずれも「形容詞+いです」の形から「名詞+です」「動詞+です」の形へ直してあります。
・賢い(形容詞)+です⇒豊富(名詞)+です
・上手い(形容詞)+です⇒上手(名詞)+です
楽しみ(形容詞)+です⇒楽しみに(修飾語)+待って(動詞)+います
文法上は正しく、また一般的にも違和感を持たれずらいので、「形容詞+いです」という表現を用いても問題はありません。しかしどうしても違和感を拭えないのであれば、他の表現法を探してみるのも一興です。
たとえば形容詞をあえて用いず、因果関係や感情を説明するという手段があります。
△言葉を学ぶのは楽しいです
〇言葉遣いの違和感をうまく解消できると、また一つ賢くなれたという充実感を味わえます。
上記の例では、「違和感を解消」⇒「賢くなれた」という因果関係を示すことで、間接的に「楽しい」という感情を説明しています。単に「楽しいです」と表現するよりも具体的に行動をイメージできるので、読者にも文章がより伝わりやすくなります。
あるいは最初に「楽しいです」と書き、その後に「なぜ楽しいのか?」を説明する、という手法を採っても良いでしょう。これは論文などでも用いられる基本的な文構造で、「結論⇒理由」という順番を守り続けることで、文章のリズムを掴みやすくするというテクニックです。
形容詞と理由をセットにして書き進めれば形容詞の違和感も生じませんし、リズムが一定なので読者にも読みやすい印象を与えられます。
ちなみに量や質を表す形容詞(「大きい」や「重い」など)は、数値で言い換えることもできます。これは「形容詞+いです」の違和感を打ち消すだけでなく、読者がより具体的にイメージしやすくなるという利点もありますから、積極的に取り入れたい手法でもあります。
具体的な例を挙げますと、
・大きいです
全長3mの冷蔵庫です
このミカンは通常サイズの1.5倍あります・重いです
この袋にはミカンが100個も入っているので、持ち上げるのも一苦労です
成人男性の平均体重は70㎏ですが、彼の体重は80㎏を超えています
このように形容詞を数値や具体的な単位へ言い換えることで、より視覚的なイメージを相手に伝えることができます。特に対象物のサイズや量を説明する際には、数値を使った表現が効果的です。
また例に挙げたように、比較表現を用いることでも形容詞を言い換えられます。この手法であれば、ネガティブな言葉であっても婉曲的に表現できるので、角が立たないように伝えられるという利点も得られそうです。
というわけで形容詞についての考察でした。形容詞は便利な反面、違和感を生じさせたり、言葉足らずになったりすることもある、というお話をさせていただきました。執筆者たるもの、読者はもちろん、それを書いた自分自身も納得できる文章を目指したいところ。最適な表現方法を見つけるべく、文章の違和感には目を光らせておきましょう。